<濱永健太弁護士の連載コラム>
検証!障害者雇用促進事業
~法の趣旨から見る屋内農園型障害者雇用支援サービスについて~第2回
前回は、障害者雇用促進法が定める雇用義務の趣旨と屋内農園型障害者雇用支援サービスの仕組みについてお話させて頂きました。
今回は、このような支援サービスの適法性についてお話したいと思います。
1.障害者雇用促進法第43条における適法性
まず、現時点において、当該サービスを禁止するような法規制はありません。
そこで、障害者雇用率制度を定める法第43条の趣旨に反しないかという視点から検討すると、企業が障害者を常用労働者として雇用し、自社が運営する屋内農園にて就業させるものであるため、障害者が常用労働者となる「機会」を確保するものであることは明らかです。また、賃金等の条件面でも一般労働者と同じ水準で採用されていることからしても、障害者であっても一般労働者と同じ水準において採用される「機会」を確保するという同条の中心的な目的を達成させるものであり、その趣旨に反するものではないものといえます。
さらに、実質面を見ても、企業が自社で運営する農園(企業ごとに明確に区画が分かれている。)において、企業が採用した管理者によって、同じく企業が採用した障害者への業務指導(指揮命令)が行われていることからしても、企業が責任をもって採用、労務管理及び農園の運営を行っているものといえますので、この点でも法43条の趣旨に反するものではありません。
2.障害者雇用促進法第1条、第3条、第5条における適法性
次に、雇用の「質」との関係では、法第1条には、障害者の能力を有効に発揮できるようにするための措置を企業に求めており、そもそもの法律の目的が、障害者が能力に適合する職業につくことによって職業生活において自立することを促進することにあることが定められております。また、法第3条において職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるべきであることが規定されていることからしても、単に雇用の場を提供し、給与等の条件を一般労働者と合わせるだけでなく、障害者の能力や意向を加味しながら、その能力を発揮し、キャリア形成も含めた能力の向上の機会が得られるような就労環境を整えることが必要とされております。それを受けて法第5条においても「職業能力の開発及び向上に関する措置」が追加されたといえます。障害者雇用支援に関する事業を行う上では、「質」に関してこの点を常に意識した運営が不可欠であるものと思います。
現在、農福連携が注目されていることからも明らかなように、農業は障害の特性との関係でも親和性が認められるものであり、障害者に担当してもらう業務としての適切性が認められます。また、上述の通り科学的なアプローチに基づくアドバイスを通した支援が行われることで、障害者の能力を最大限発揮しながら就業を行うことができ、更なる能力開発を行うことが可能となりますので、法の目的や理念である職業生活における自立にも資するものといえます。
また、採用された障害者としても、農園における就労に限定されるのではなく、個人のキャリアや意向を踏まえて、企業の本社などで業務を行ったり、そこで業務の切り出しによって設けられた業務に就労したりすること、特例子会社における業務への従事を行うこと、あるいは、シェアオフィスにおける勤務など、複数の選択肢が選べるようしていることからも(サービス事業者としては企業に対して、各選択肢についての運営に関するコンサルティングを行うことで支援する。)、法の趣旨である障害者のキャリアアップの機会の確保や障害者の意向を重視した働き甲斐の確保にも配慮されているものと言えます。
以上のことからすれば、雇用の「質」を求めている第1条、第3条、第5条の趣旨にも反しないものといえます。
次回は、支援サービスに関する問題点として指摘されている点について考察してみたいと思います。
弁護士法人飛翔法律事務所
パートナー弁護士 濱永 健太
2004年岡山大学法学部卒業、2008年立命館大学法務研究科法曹養成専攻修了、2009年弁護士登録と共に現事務所に入所、2015年パートナーに就任。
クライアント企業の立場に立って、企業間トラブルや労務トラブルに対するアドバイスと解決を行っている。
特に人材派遣会社での勤務経験を活かして、人材サービスに関する法務問題に注力している。
その他、広告やキャンペーンを規制する景品表示法・薬機法、不動産、相続の案件を多く手掛ける。