<濱永健太弁護士の連載コラム>
検証!障害者雇用促進事業
~法の趣旨から見る屋内農園型障害者雇用支援サービスについて~ 第3回
前回は、屋内農園型障害者雇用支援サービスが、明文の法律に反するものではなく、障害者雇用率制度を定める法第43条の趣旨にも反しないことをお話しました。今回は、支援サービスに関する問題点として指摘されている点について考察してみたいと思います。
指摘されている問題点
同サービスに関しては、①農業とは無関係な事業を行う会社が、障害者雇用のために無理やりに農作物を栽培しているのではないか、②成果物である農作物については社内での無料配布が行われ、場合によっては破棄もされており、障害者の就労の成果が会社の外部や社会に還元されていないのではないか、③雇用を事実上代行するビジネス事業者にお金を払い、雇用率を買うようなものではないかという理由から、法定雇用率を形式上満たすためのものであって、実質的な障害者雇用ではないのではないかとの指摘が一部あります。
1.新規事業として農業に参入することについて
しかしながら、①に関しては、企業が障害者を雇用するに際して障害の特性に応じた新規の事業を行うことは法の趣旨に反しないと考えられるところ(禁止する法律もありません。)、それまで農業を行っていない企業が障害者に適切な職場を提供するためにこれに参入したからと言って不当であるとは言えません。障害者に一般労働者と同じ業務を行わせることが重要なのではなく、障害の特性に配慮しながら最大限能力が発揮される業務を設けることが重要であるといえます。その上で、農業という分野が障害者にとって適切性が認められる分野であることは上記の通りです。
2.障害者の就労成果の社外や社会への還元について
また、②に関しても、労働の成果について外部や社会に還元されることは、障害者にとっての自己実現に資するものであり、それが社会的な要請であるという指摘ももちろん理解できる面はありますが、実際の活用状況を見れば、社員食堂や社員への配布などの社内における消費だけでなく、一般消費者や企業に対して成果物が販売されている場合やノベルティグッズとして顧客や取引先に配られているケースも多く、外部や社会に還元されていないという指摘は必ずしも全てのサービス事業者に当てはまる指摘ではありません。この成果物の活用については、工夫次第(活用方法を見据えて何を栽培するか、どのような形で製品化するか、どのような提供の仕方を行うかなど)で様々な選択肢があり、一概に「社会に還元されない」と指摘することは不適切であるように思います。
3.法定雇用率を形式上満たすための「代行ビジネス」であるとの指摘について
さらに、③に関して、近年問題視されている障害者雇用に関する「代行ビジネス」は、雇用する企業の負担を0ないし限りなく少なくするという謳い文句のもと、企業は障害者を雇用した後はいわゆる丸投げによって事業者に任せてしまうことが問題視されています。そして、このような代行ビジネスの利用については衆議院の委員会における附帯決議においても「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること。」という警笛を鳴らしていることも事実です。
しかしながら、採用から業務指示(指揮命令を含む。)、労務管理等について企業が主体的に関わるべきであることをアドバイスしつつ、障害者の障害特性や希望、キャリアアップに対する対応を企業に責任をもって行ってもらう体制を整えるなど、企業の責任の下で運用を行うべきことを前提とするアドバイスを行う事業者であれば、いわゆる「代行ビジネス」とは一線を画するものとして、「雇用率を買うようなもの」という批判は当たらないものと言えます。
また、上記の通り、研究成果をもとにした専門的知識や科学的根拠を用いたアドバイスを行うサービス事業者もおり、障害者雇用に関するこのような知見を雇用する企業が一から獲得することは不可能ないし著しく困難であることからしても、サービス事業者によるアドバイスの価値が見いだせるところです。そして、このようなアドバイスを通して、法の趣旨である障害者が働き甲斐をもって働くことができる職場環境の実現に寄与し、また、障害者の意向を適切に把握した上でのキャリアアップにつなげることが期待できるものと言えます。
第4回(最終回)では、今後の支援サービスに求められるものについてお話したいと思います。
(第4回に続く)
弁護士法人飛翔法律事務所
パートナー弁護士 濱永 健太
2004年岡山大学法学部卒業、2008年立命館大学法務研究科法曹養成専攻修了、2009年弁護士登録と共に現事務所に入所、2015年パートナーに就任。
クライアント企業の立場に立って、企業間トラブルや労務トラブルに対するアドバイスと解決を行っている。
特に人材派遣会社での勤務経験を活かして、人材サービスに関する法務問題に注力している。
その他、広告やキャンペーンを規制する景品表示法・薬機法、不動産、相続の案件を多く手掛ける。