<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第2回 経営者が継続的に関与 「取組み目的」の策定から
担当者へ一任が失敗招く典型例
中小企業が障害者雇用を始めるきっかけには、次のようなものがある。
① 経営者の親族などに障害者がおり、自立に向けて支援したいと考えたため
② 近隣の特別支援学校から熱心なアプローチがあったため
③ ハローワークからの指導を受けたため
④ 人手不足に対応するため
⑤ 企業の社会的責任を意識した地域貢献のため
⑥ ダイバーシティ&インクルージョンに対応するため
①~⑥について詳しく説明する。①の場合、経営者が身近に障害者を見てきており、障害者に対する理解と関心があるため、自らが積極的にかかわるので比較的うまくいく。②では、採用した人材が会社を高く評価し、それを母校に伝えれば、後輩も続いて入社するようになり、特定の特別支援学校からの採用ルートができ上がっていく。③は法令遵守のために対応が欠かせず、事態を放置すれば法定雇用率未達成による障害者雇入れ計画作成命令や企業名公表などの処分を受ける可能性がある。
最近、増えていると実感するのが④である。人手不足は深刻で、業務の縮小や廃業に追い込まれるケースもあるなか、一部の企業が採用のターゲットを健常者から障害者に変えている。反対に、⑤は増えてきていない気がする。⑥は社会の流れに乗り遅れまいとの気持ちが底流にあるのだろう。
積極的な理由であれ消極的な理由であれ、障害者雇用の成否は、経営者の理解と覚悟が最大のポイントである。「障害者雇用を成功させる」との強い決意なくして、うまくいかない。
経営者はまず、自社が「なぜ取り組むのか」という明確な目的、理念をしっかり作り、正式に経営決定し、社内に明示する。その後は、常に社内の動向を把握して適時、適切な指示や周知活動を行い、粘り強く社内の理解を深める努力を続ける。社員を動かすには、経営者の継続的な関与が欠かせない。
障害者雇用をするとなると、社内には不安と戸惑いが湧き出てくる。従来の障害者雇用からイメージされる身体障害者や知的障害者ではなく、精神障害者を雇用するとなれば不安が強く出ることがある。場合によっては反対意見や抵抗もある。乗り越えるには会社としてのしっかりした考え方と体制が不可欠で、経営者が先頭に立って動かなければ難しい。
失敗するパターンは、経営者が人事担当者や障害者を受け入れる現場に対応を一任するケースで、社内の理解不足や担当者のやらされ感・負担感を理由に行き詰まる。時々、障害者雇用を任されている人事担当者から、「経営者や上司、受入れ現場が理解してくれず、孤立無援で苦闘している」との愚痴や嘆きを聞く。障害者を受け入れた現場からは負担だけが増したと反発も出てくる。会社が決めたことだからと仕方なくやらざるを得ないとの受止めでは結果は明らかである。
これでは結局、障害者は「社内の理解がない」と居づらさを覚えて退職してしまう。社内には徒労感と、「2度と障害者を受け入れたくない」とのトラウマが残る。何ごともそうであるが、事前の準備が足りなければ成功する可能性は小さくなる。障害者雇用も同様で、1度失敗するとそのトラウマが強く残り、再度の挑戦は困難を極める。
1人目採用には専門家の協力を
経営者による目的・理念の策定に当たっては、「当社をここまで成長させていただいた地域社会の皆様に、障害者の自立を支援することで恩返しをするため」などと宣言をまとめる。重要なのは、幹部会議などで承認を得て、経営事項としての決定とすることだ。以降は会議の都度、議題に取り上げたり、社内報や掲示板で取組み状況や成功事例を頻繁に周知し、常に社員の目や耳に触れるようにして理解促進を進めていく。雇用する前には、管理職層や受入れ職場へ研修を行い、不安を減らすことも欠かせない。経営者自身が口に出し続ければ、社内に本気度が伝わり少しずつ状況が変わる。これを継続することが肝要となる。
社内での準備は、主に推進体制の構築と社内理解促進が柱になる。まずは、障害者雇用を推進する担当部署と担当者を決める。担当者が障害者雇用の経験がない場合には勉強して理解を深めてもらう必要がある。国の機関(高齢・障害・求職者雇用支援機構など)が研修を整備しており、活用する手もあろう。
ただ、初めて障害者雇用をする場合は、専門家へ早期に相談することをお勧めする。自社単独で進めるには荷が重く、専門家の知見は助けとなり、失敗するリスクを押し下げる。最近は企業に対する伴走型の就労支援コンサルタントや支援機関も増えてきた。コンサルタントなどには、会社全体としての進め方、経営者の動き方、職場が理解を深めるための取組みの詳細、採用・定着の手法などを包括的にアドバイスしてもらう。加えて、推進体制の構築と障害者雇用の担当者の育成の仕方についても助言を求めると良い。
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所
代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹
三井住友海上火災保険とその関連会社に41年勤務。営業・経営企画・人事労務、関連会社の役員等を経験。その経験を活かして経営者目線で人事労務コンサルティングを行っている。特に障害者雇用に注力。精神保健福祉士・訪問型ジョブコーチでもあり、精神障害者・発達障害者・知的障害者を雇用する企業への支援を得意としている。
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