2024.04.23

<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第3回 体調面のケアが万全に 医療機関経由で採用なら

<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第3回 体調面のケアが万全に 医療機関経由で採用なら

JEED作成の資料が役に立つ
 障害者雇用を始めたいが何から勉強したら良いかと質問を受けた場合、経営者の方にはまず関連する法律の理解をお勧めしている。経営者が最低限押さえておくべき法律は、①障害者雇用促進法と②障害者総合支援法である。押さえたいキーワードは合計で4つあり、①では「差別の禁止」(第34条~)、「法定雇用率」(第43条)、「合理的配慮の提供」(第36条の2~)、「障害者就業・生活支援センター」(第28条)であろう。とくに前の3つは障害者雇用の根幹をなす部分に当たり、厚生労働省作成のリーフレットやQ&Aなどを読んで理解しておく必要がある。②では障害福祉サービスの概要のほか、訓練等給付(就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援)の概要と障害者を受け入れる企業との関係を把握しておきたい。パンフレットなどはネットで検索すれば容易に入手できる。
 障害者雇用に関する書籍は色々と出版されているが、高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が毎月発行している事業主向けの啓発誌『働く広場』をお勧めする。障害者雇用事業所の職場ルポなど最新の雇用事例を中心に、身近な問題を取り上げており、理解に最適と考える。バックナンバーも含めてJEEDのホームページから無料で見ることができるので、まとめて読み込めば一気に理解が進む。
 これ以外には、都道府県労働局やハローワーク、自治体などが主催する企業向けの障害者雇用促進セミナーに参加したり、障害者雇用の先行企業に見学に行くことも参考になる。先行企業の見学は、ハローワークの専門援助部門や地域の障害者就業・生活支援センターなどに相談すれば見学先を紹介してもらえることがある。
 障害者雇用担当者の育成も、見るべきコンテンツなどは基本的に経営者向けと同様であるが、以下の活用も推奨する(別表)。とくにJEEDはテキストや動画コンテンツが充実しているので、確認してほしい。さらに、「企業在籍型職場適応援助者」の研修を受講すれば、社内での受入れに関する知識が体系的に学べる。同研修は、企業在籍型ジョブコーチの養成を目的に、厚労省が指定する機関ややJEEDが開いているものである。ジョブコーチは、障害のある社員の職場への適応をサポートする人材を指す。
別表 知識習得のために活用したいコンテンツ一覧

(1)JEED(企業向け研修や資料が豊富であり、フル活用すると良い)
 (a)JEEDホームページの「はじめての障害者雇用~事業主のためのQ&A~」…一通り読んだだけでも理解は進む。
 (b)障害者職業生活相談員資格認定講習の受講…講習テキストを読むだけでも勉強になる。
 (c)地域障害者職業センターの事業主支援の活用…同センターでは、情報提供や相談に乗ってくれるので積極的に活用してほしい。
 (d)JEED作成の資料で参考になるもの。
  ・『就業支援ハンドブック(令和5年2月改訂版)』
  ・『ともに働く職場へ~事例から学ぶ精神障害者雇用のポイント~』★
  ・『みんな輝く職場へ~事例から学ぶ合理的配慮の提供~』★
(2)厚労省
  ・精神・発達障害者しごとサポーター養成講座(eラーニングあり)
(3)東京都
  ・東京しごと財団の職場内障害者サポーター養成講座
  ※「★」は動画コンテンツ
特別支援学校も有力な獲得手段
 障害者雇用では、専門機関・支援機関に早めに相談し支援を受けることが重要であると述べた。専門機関にはJEED、地域障害者職業センター、ハローワーク(専門援助部門)、障害者就業・生活支援センター、専門コンサルティング会社などがあるが、採用を考えると障害福祉サービス事業所(就労移行支援事業所、就労継続支援事業、就労定着支援事業所)や特別支援学校も見逃せない。これらは、採用ルートとして重要で、採用後の支援をしてくれる専門家が属する組織でもある。採用前の準備・訓練経過を知っているので、就職後に職場で困りごとが生じた時などに、支援を受けられる。求人情報を持って挨拶に行くなどして常日頃から意識して太いパイプを保っておくことが大事である。
 ただ、障害福祉サービス事業所によってはスタッフの支援力に濃淡があるようである。専門職(精神保健福祉士、社会福祉士、作業療法士、キャリアコンサルタントなどの国家資格者)が在籍しているかどうかは確認しておきたい。
 筆者が注目しているのは、デイケアで就労準備プログラムを実施している医療機関である。医療機関は、発症時以来の長い治療経過を含めて現在に至った経緯を承知しているという強みがある。ここを経由しての就労だと、就職後に体調管理面で問題があったり、不調の兆しが出た時に万全の対応をとりやすい。また終業後にナイトケアに行き医療スタッフとの面談や利用者同士の交流で悩みやストレスを減少させるなどの効果も期待できる。ただ、支援スタッフの活動範囲が診療報酬の制約を受けるという悩みを聞くことがある。
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所 代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所
代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹

三井住友海上火災保険とその関連会社に41年勤務。営業・経営企画・人事労務、関連会社の役員等を経験。その経験を活かして経営者目線で人事労務コンサルティングを行っている。特に障害者雇用に注力。精神保健福祉士・訪問型ジョブコーチでもあり、精神障害者・発達障害者・知的障害者を雇用する企業への支援を得意としている。


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