2024.05.28

<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第4回 動画で仕事内容を提示 ミスマッチ防止策として

<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第4回 動画で仕事内容を提示 ミスマッチ防止策として

甘い採用計画が早期離職を招く
 採用ルートには、ハローワークの専門援助部門、就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター、特別支援学校(高等部)など多様な支援機関がある。それぞれに就労支援員や教員などの支援者が所属しており、関係を密にしておきたい。
 ハローワークの専門援助部門は、障害者の就労支援サポートをする専門の職員がおり、求職者の情報を豊富に持ち、相談に乗ってもらえる。トライアル雇用助成金などの助成金の利用を考える場合は、まずハローワークとなる。
 就労移行支援事業所は、常に利用者の就職先と実習先を探している。就職後の各種支援や定着支援を考えると、重要な採用ルートとなる。最大2年にわたり利用者に対して就労準備に向けたトレーニングをしているので、職業指導員や生活支援員らスタッフが利用者の特性を熟知しているのが強みである。日頃から就労移行支援事業所と仲良くしていると安定的に利用者の紹介を受けられるし、採用後に困りごとが発生した際には相談に乗ってもらえる。機会を見付けて近くの就労移行支援事業所を見学して、訓練プログラムや訓練の様子を見学させてもらうと、自社に適した人材の採用に役立つ。
 精神障害がある方の場合、思春期に発病し治療を開始したために社会経験、就労経験がないか乏しいケースがあるため、採用後に社会人の基礎をイチから教育するのは企業にとって負担が大きい。そのため、就労移行支援事業所などで訓練した人を採用する方が安心感がある。
 障害者就業・生活支援センター(通称「なかぽつ、就ぽつ」)は職業訓練機関ではないが、地域の求職者の情報を持っており相談に乗ってくれる。
 知的障害者を採用したい場合は、特別支援学校(高等部)の進路指導担当教諭に直接照会する手もある。特別支援学校では常に生徒の就職先と実習先を探しているので歓迎される。
 上記の採用ルート以外にも、合同就職面接会などがあるが、それなりに課題もある。
 一般的な求人の場合、闇雲に採用する企業はまずない。まず、将来を見据えた事業計画を基に要員計画と採用計画を作る。いつ、どんな業務に、何人を配置する必要かを考えたうえで、具体的な採用人数や配置部署を決める。雇用したら簡単には解雇や雇止めはできないので、慎重に進めるのが一般的である。中小企業の場合は1人採用するだけでも負担は大きいので、失敗は許されない。
 しかし、障害者雇用では意外にこれが甘くなることがある。法定雇用率を達成できないために切羽詰まって採用してしまうケースもみられる。結果としてミスマッチや早期離職につながってしまう。
 第一にすべきは、障害者にやってもらいたい仕事を明確にすることである。「この仕事ができる人を雇用したい」とのビジョンを明確にする。
 次に、仕事の具体的な内容・手順・難易度・量・求められるスピード・正確性・仕事の最終形の姿などを詳細に説明した資料を作成して、各採用ルートに提示する。実際の仕事内容を撮影した動画も良い。支援機関の担当者に職場に来てもらい、実際に仕事を経験してもらったり、職場環境を見学してもらうとより理解が進む。そうすれば支援機関側は、各職場に合った人を選んでくれるし、事前訓練をしてくれるケースもある。それが支援機関に依頼するメリットといえる。

職場実習期間は最低でも3カ月
 ビジョンに合う人材の確保には、職場実習が欠かせない。筆者は、期間は3カ月が良いと考えている。1~2週間では頑張り通せてしまうので、本人の実態を把握するのは難しい面がある。3カ月であれば、良くも悪くも実態がみえてくる。職場実習により、働くうえでの課題が明確になるので、就労移行支援事業所や特別支援学校では実習終了後に課題解決のための訓練を行ってくれる。職場実習は本人に対するアセスメントの機会でもある。アセスメントについては次回に述べたい。
 支援者が付いていない場合の採用は、慎重を期した方が良い。就労移行支援事業所などでは、スタッフが利用者の支援・訓練をしてきているので、本人のできること、できないこと、障害特性、生活上の課題、コミュニケーション上の課題、思考の傾向などをしっかり把握している。障害者合同就職面接会などの採用面接時に一緒に付いて来て、適宜、本人のサポートをしてくれると企業側も適切な情報を得られ判断しやすい。本人だけではどうしても緊張したり認知能力やコミュニケーション力不足などで自身の考えを十分に説明できないケースが少なくないからである。
 支援者は、利用者の就職後も半年間にわたり、就職先で困りごとが起こったときには企業からの相談に乗り、解決に向けて支援してくれる頼りになる存在である。ケースによっては引き続き就労定着支援(上限3年間)の障害福祉サービスを受けられる。支援者との関係を密に連携しない手はない。
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所 代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所
代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹

三井住友海上火災保険とその関連会社に41年勤務。営業・経営企画・人事労務、関連会社の役員等を経験。その経験を活かして経営者目線で人事労務コンサルティングを行っている。特に障害者雇用に注力。精神保健福祉士・訪問型ジョブコーチでもあり、精神障害者・発達障害者・知的障害者を雇用する企業への支援を得意としている。


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