2024.08.24

<前田 豊社労士の連載コラム 全11回>
法改正と障害者雇用の実務
第2回 改正障害者雇用促進法~短時間労働の雇用率算定が障害者雇用に及ぼす影響について

<前田 豊社労士の連載コラム 全11回>
法改正と障害者雇用の実務
第2回 改正障害者雇用促進法~短時間労働の雇用率算定が障害者雇用に及ぼす影響について

1. 障害者雇用における勤務時間調整の困難さ
1ヶ月ほど前に、私が経営する障害者就労支援施設で、スタッフが突然やめてしまいました。メンタル疾患の診断を受けていた方なのですが、コミュニケーション力が高く、就労支援サービス利用者から人気のある方でした。突然おやめになった原因を振り返ってみると、勤務時間の増加を急ぎすぎたことが原因の一つであったのかと思っています。

週3日、一日6時間の週18時間勤務からスタートしました。順調に勤務を重ね、2ヶ月経ったところで、本人と相談の上、週5日勤務、一日7時間の週35時間勤務としました。大幅な勤務時間増になりましたので、本人に十分に検討していただく時間を設けました。

本人からの希望としては、連休ではなく、3勤務したら1休のように休日を設けることで、体調の管理ができそうなので、週5日勤務に挑戦してみたいと申出があり、勤務時間増加に踏み切りました。

しかしながら、時間増加して1ヶ月ほどたったところで、本人が大きく体調を崩すことになりました。徐々にというよりは、突然、体調不良の波が来ているように見え、急に休んだり、遅刻をしてくる日が一週間ほど続き、少し休んでいただこうかと思っているうちに、そのまま退社になってしまったのです。

この経験から、私は、障害のある人にとって、働く時間の調整はより慎重にしなけばならないのだと痛感しました。一時期、調子が良いからと言って勤務時間を増やしたところで、不調の波が来た時に勤務時間を減らすのは、本人に説明して同意を得る必要がありますので、簡単ではないです。真面目なスタッフは、増やした時間のシフトを必死に守ろうとしますから、会社が休むよう助言した程度では、休まずに出社します。結果的に、早急な勤務時間増加が、急な体調悪化につながってしまったのではないかと、今、振り返り思っています。
2. 障害者雇用の短時間化とそのメリット
さて、障害者雇用の勤務時間に関しては、会社側の論理からすると、障害者雇用率の算入の基準が週20時間勤務からであったため、障害者枠の雇用は、週20時間以上の勤務を前提とする例が多かったように思います。実は、今年の4月から、障害者雇用の勤務時間についての制度改正がされているのをご存じでしょうか。週所定労働時間10時間以上20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者が、障害者雇用率の算定で0.5人とカウントされることになったのです。障害特性により長時間の勤務に不安がある方が、雇用率のために、急ぎ勤務時間を延長する必要がなくなっているのです。また、週20時間以上30時間未満の短時間で働く精神障害を雇用している場合は、障害者雇用率の算定において、本来0.5カウントのところ、1カウントできることになっています。これは、精神障害者の雇用が義務化された平成30年に始まった特例で、令和6年以降も当面継続されることになっています。

このように、障害者雇用については、短時間勤務から認める方向性で制度がかわってきています。働く障害者にとっては、スキルは優れていたとしても、体力的に一定時間以上働くのが難しい場合があります。週10時間からの労働を雇用率に認めていただけることで、多くの障害者に働くチャンスが与えられる制度になっています。

会社にとっても、短時間の労働者を多数雇用することで、障害者雇用率を安定して満たすことが出来る効果が期待できます。1名の被雇用者の入退社により、雇用率を満たすか否かが決まるのでなく、数多くの障害者を雇用することで、たとえ1名の離職があったとしても雇用率に大きな変動なく次に備えることができます。

また、何よりも、雇用の本来的な意味として、様々な働くスキル、長所をもった障害者に、短時間勤務から会社業務にかかわっていただくことで、企業活動をよりよいものにしていく可能性を秘めていると考えます。
3.障害者雇用の制度を活かす経営へ
私は、社労士になりたての平成23年ころに、障害者雇用で業績を伸ばしている中小企業を取材にまわったことがありました。業種はさまざまでしたが、雇用の仕方には似通った法則がありました。それは、障害のある社員を特定の部署やラインにまとめて、製品を完成させる前段階の処理又は後処理を集中して行うことで、企業全体の生産性を高めるやり方でした。

例えば、冠婚葬祭の生花を扱う会社では、イベント後日に回収された生花を、社内の障害者雇用のチームが乾燥させ粉砕してから廃棄することで、生花のまま廃棄するのに比べて廃棄コストが大幅に下がるので、企業の利益向上に役立っている、だから障害者雇用を積極的にしているのだと話を伺ったことがあります。肉の卸売りの会社では、障害のある社員が複数いる部署が、例えば100gごとなど一定量の肉の塊を作っておくのだそうです。すると、肉の注文が入って発送に出すときに、発送のチームが、予め塊になっている肉の個数を数えて発送に出すことで、発送にかかる時間を大幅に短縮できる、だから障害者雇用をしているのだと聞きました。いずれも、障害者の作業特性を活かして、企業全体の生産性を高めている素晴らしい事例であります。

一方で、令和の時代の障害者短時間雇用の方向性は、障害者個々の長所や特技を活かし、短時間からでも会社業務と組み合わせていくやり方です。より個人の特性を大切にしうる制度改正であると考えます。短時間労働の雇用率算定が障害者個人と会社にとって、よりよい制度運用になるよう、日ごろから障害者雇用にかかわるものとして努力を続けていきます。
前田福祉社労士事務所 代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka
前田福祉社労士事務所
代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka

東京学芸大学卒業後、あきる野市社会福祉協議会に11年間勤務。障がい者施設で支援について学ぶ。平成23年に社会保険労務士として独立し、福祉施設の労務管理を業として行いながら、法定雇用率に関わらず障害者を雇用している中小企業の取材活動を行う。


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