2024.09.30

<前田 豊社労士の連載コラム 全11回>
法改正と障害者雇用の実務
第3回 改正障害者雇用促進法 障害者雇用をする企業への助成金について

<前田 豊社労士の連載コラム 全11回>
法改正と障害者雇用の実務
第3回 改正障害者雇用促進法 障害者雇用をする企業への助成金について

 障害者を雇用する企業に対する助成金については、障害者に支払う賃金の一部を助成するものと、障害者が働きやすい職場環境や制度づくりに対して助成するものの大きく2種類あります。

これらの助成金は、令和6年4月1日施行の法改正により、障害者の雇入れ及び雇用継続に対する相談支援に対応が新設され、また、障害者介助等助成金、職場適応援助者助成金(ジョブコーチ)は拡充されました。

1 障害者に支払う賃金の一部を助成するもの

 (1)障害者トライアル雇用助成金

賃金の一部を助成する制度としては、従来より、障害者トライアル雇用助成金、特定求職者雇用開発助成金が広く知られています。障害者トライアル雇用助成金は、精神障害者の障害者雇用義務化に伴い、従来3か月だったトライアル雇用期間が、精神障害の人に限り、6か月まで認められています。また、雇用契約当初に週20時間勤務に満たないのですが、週10時間の超短時間から徐々に勤務時間を増やしていく場合は12か月のトライアル期間も認められています。 

トライアル雇用助成金は、比較的書類も少なく、手続きがわからない場合はハローワークの障害者雇用の部署担当者が教えてくれるので、障害者雇用を始めたい企業にとって使いやすい助成金と言えます。

 実際に、私の会社では、過去2年間に6名のトライアル雇用を行い、トライアル雇用助成金を活用してきました。進め方は、まずは地域の就労移行支援事業所の紹介を受け、一週間ほど就職希望者の体験実習をします。雇用に進めそうだったら、ハローワークにトライアル雇用求人を提出し、精神障害の場合は、6か月間トライアル期間を設けるやり方をしています。

助成額は、最初の3か月は月額8万円、その後3か月は月額4万円の計36万円が人件費の補助として支給されます。勤務時間数に関わらず、雇用保険に加入していることを条件に一律の金額が支給されます。例えば、週20時間勤務の場合は、給与が時給1,200円とすると、1,200円×20時間×4週=96,000円/月が月給になるのに対して、最初の3か月のトライアル雇用助成金額は月額8万円です。給料の約8割が助成されることになります。しかも、一般的に助成金は、当初の計画どおりにことが運ばないと支給されない場合が多いのですが、トライアル雇用助成金に関しては、仮にトライアル期間中に対象社員が離職することになっても、在籍期間分の助成はされることになっています。企業にとって、大変使いやすい助成金といえます。障害者雇用に少しでも興味のある会社には、まずトライアル雇用助成金の制度及び活用の仕方を、知っていただきたいと考えています。

 特定求職者雇用開発助成金については、トライアル雇用期間後に、受給対象となる場合は労働局から助成金の案内が送付されてきます。6か月ごとに期間を区切って、身体・知的障害者の場合は30万円が3回、重度の身体・知的障害者、精神障害者の場合は40万円が5回支給されます。ハローワークの職業紹介を受けており、かつ、対象者が職業紹介を受けた時に失業状態にあることなどが受給要件になります。当社では、トライアル雇用期間を終えた従業員のうち1名はハローワークの職業紹介時に失業状態ではなかったとして、助成金の対象外でした。他の対象者でトライアル雇用後に継続雇用した方については、全員特定求職者雇用開発助成金を受給しています。

 (2) キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)

 前記で、ハローワークの職業紹介を受けて雇用した障害者へのトライアル雇用助成金と特定求職者雇用開発助成金の紹介をしました。次に、ハローワークの紹介を受けずに、障害者を雇用した場合の助成金活用について書きます。
 キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)は、障害をもつ有期雇用労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換する措置を行った場合、又は障害のある無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する措置を行った会社に、転換後6か月の期間で区切って、最高額60万円×2回が助成されます。助成額は障がいの種別や程度、勤務時間により異なりますので、詳しくは厚生労働省のホームページをご覧ください。

キャリアアップ助成金を活用するには、正社員化や無期雇用化をする前に、予め就業規則を整えて労働基準監督署へ提出し、キャリアアップ計画書を労働局へ提出しておく必要があります。
ここまでは、障害者を雇用した場合の賃金の一部を補助する助成金について紹介しました。次に、障害者が働きやすい環境をつくるため、施設等の整備や適切な雇用管理の措置を行った場合の助成金を紹介します。

2 障害者が働きやすい職場環境や制度づくりに対して助成するもの(障害者雇用納付金制度に基づく助成金)

 会社が障害者を雇用するために、職場の作業施設・福祉施設等の設置・整備、適切な雇用管理のために必要な介助等の措置、通勤を容易にするための措置等を講じた場合、 その費用の一部を補助する趣旨で次のメニューが組まれています。

(1)障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金
 作業施設、作業施設等の整備を行う事業主の方への助成金・福利厚生施設の整備を行う事業主等の方への助成金です。

(2)障害者介助等助成金
雇用管理のために必要な介助等の措置を行う事業主の方への助成金です。例えば、障害をもった社員が直属の業務命令のほかに相談できる職業生活相談支援専門員の配置に対して助成される制度などがあります。

(3)重度障害者等通勤対策助成金
障害のある社員の通勤を容易にするための、駐車場の賃借、住宅手当の支払いなどを行う事業主等の方への助成金です。

(4)重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
障害者を多数継続雇用し施設等の整備等を行う事業主の方への助成金です。

(5)職場適応援助者助成金
職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を行う事業主の方への助成金です。ジョブコーチは、働く障害者への支援と、会社に対して障害者が働く環境づくりの双方の視点で会社内に入って一定期間支援します。

(6)障害者雇用相談援助助成金
障害者雇用相談援助事業を実施する事業者が、当該事業を利用する事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合に、その費用の一部を助成します。

(7)障害者能力開発助成金
障害者の能力開発の事業を行うための施設または設備の設置や整備等を行う事業主の方、またはその能力開発訓練事業を運営する事象主の方への助成金です。

(8)障害者職場実習等支援事業
これから障害者を雇用しようとする事業主の方や障害者雇用のノウハウをお持ちの事業主の方へ謝金等を支給します。

多数のメニューがあり、それら1つ1つの助成内容については、助成金の事務を扱う高齢・障害求職者雇用支援機構が動画付きでホームページにあげています。興味のあるメニューについてはぜひご覧になってください。
https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html
 
国が障害者の雇用を推進していますので、民間事業者が国の施策を積極的に活用し、障害者の雇用を充実させていく意義は大きいと考えています。
前田福祉社労士事務所 代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka
前田福祉社労士事務所
代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka

東京学芸大学卒業後、あきる野市社会福祉協議会に11年間勤務。障がい者施設で支援について学ぶ。平成23年に社会保険労務士として独立し、福祉施設の労務管理を業として行いながら、法定雇用率に関わらず障害者を雇用している中小企業の取材活動を行う。

https://usei116.com/


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