2024.11.01

【吉本侑生弁護士によるコラム】
事業主が押さえておくべき障害のある労働者に対する合理的配慮の内容(全5回)

【吉本侑生弁護士によるコラム】
事業主が押さえておくべき障害のある労働者に対する合理的配慮の内容(全5回)

第3回 合理的配慮の具体例

 合理的配慮措置については、前回ご説明したプロセスに従って決定することになりますが、合理的配慮の内容については具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
 この点については、合理的配慮が個々の労働者の障害の状態や職場の状況に応じて個別に決定されるものであることから、一概にどのような措置を講じるべきかを明らかにすることはできませんが、厚生労働大臣の定める『合理的配慮指針』(以下「配慮指針」といいます。)においては、多くの事業主が対応できると考えられる措置として、障害の区分や場面に応じて、以下のような措置が挙げられています。
 そのため、これらを参考に具体的な配慮措置を決定していくことが考えられます。
 なお、合理的配慮は、あくまでも職務の円滑な遂行に必要な措置として講じられるものですので、例えば、日常生活のために必要な眼鏡や車いす等を用意したり、中途障害により配慮をしても重要な職務遂行に支障をきたす場合に当該職務の遂行を継続させたりすることまで求められるわけではありません。

〔配慮指針・別表3〕
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082153.pdf
障害区分 場面 事例
視覚障害 募集・採用時 ・募集内容について、音声等で提供すること。
・採用試験について、点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行うこと。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・拡大文字、音声ソフト等の活用により業務が遂行できるようにすること。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・職場内の机等の配置、危険箇所を事前に確認すること。
・移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する等により職場内での移動の負担を軽減すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
聴覚・言語障害 募集・採用時 ・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
・面接を筆談等により行うこと。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・業務指示
・連絡に際して、筆談やメール等を利用すること。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・危険箇所や危険の発生等を視覚で確認できるようにすること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
肢体不自由 募集・採用時 ・面接の際にできるだけ移動が少なくて済むよう採用時 にすること。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する等により職場内での移動の負担を軽減すること。
・机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと。
・スロープ、手すり等を設置すること。
・体温調整しやすい服装の着用を認めること。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
内部障害 募集・採用時 ・面接時間について、体調に配慮すること。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
知的障害 募集・採用時 ・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと。
・図等を活用した業務マニュアルを作成する、業務指示は内容を明確にし、一つずつ行う等作業手順を分かりやすく示すこと。
・退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
精神障害 募集・採用時 ・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・業務の優先順位や目標を明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成する等の対応を行うこと。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること。
・本人の状況を見ながら業務量等を調整すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
発達障害 募集・採用時 ・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認め採用時 ること。
・面接
・採用試験について、文字によるやりとりや試験時間の延長等を行うこと。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
難病に起因する障害 募集・採用時 ・面接時間について、体調に配慮すること。
・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
高次脳機能障害 募集・採用時 ・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
採用後 ・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・仕事内容等をメモにする、一つずつ業務指示を行う、写真や図を多用して作業手順を示す等の対応を行うこと。
・出退勤時刻
・休暇
・休憩に関し、通院
・体調に配慮すること。
・本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整すること。
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。
 また、厚生労働省が公表している『合理的配慮指針事例集【第5版】』では、実際の企業で講じられている配慮措置が上記の配慮指針・別表3に沿って掲載されていますので、具体的な配慮措置を検討する上ではこの事例集も参考になります。
 そのほか、民間企業や地方公共団体の取組みの中から合理的配慮の好事例が集められた『 障害者への合理的配慮好事例集(令和6年3月)』や、『障害者への合理的配慮好事例集(令和5年3月)』も参考になります。

 合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のものとされており(配慮指針「第2 基本的な考え方」参照)、個々の労働者の障害の状態や職場の状況に応じて個別に決定することになりますので、どのような措置を講じれば問題がないのか判断に迷うことがあるかもしれませんが、これらを参考にすることで具体的な措置を決定しやすくなるものと考えられます。

 次回は、障害者雇用促進法上の合理的配慮の提供義務についての違反が問われた事案ではないものの、これに近い事案として、障害を有する労働者に対する安全配慮義務が問われた裁判例をいくつかご紹介します。

執筆者 弁護士 吉本 侑生/ Yoshimoto Yuki Serenity法律事務所 代表
執筆者 弁護士 吉本 侑生/ Yoshimoto Yuki
Serenity法律事務所 代表

平成29年弁護士登録。同年、ベンチャー企業を創業からIPO・M&Aまで幅広くサポートする大阪の法律事務所に入所。同事務所にて多数の企業法務案件や一般民事事件、書籍の執筆、セミナー(個人情報等)を経験し、令和6年、大阪にて独立開業。現在は、契約書作成、労働問題、債権回収をはじめとする企業法務案件を中心に、離婚、相続、交通事故、刑事事件など幅広い案件の対応を行っている。

https://serenity-law-office.site/


コラム一覧