2025.09.02

前田豊社労士 連載コラム
法改正と障害者雇用の実務
第6回 障がいのある人が活躍している障害者雇用の現場とは

前田豊社労士 連載コラム
法改正と障害者雇用の実務
第6回 障がいのある人が活躍している障害者雇用の現場とは

1 障害者雇用で会社の生産性があがっている事例
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 知的障がいのある人が多数活躍されている配送業の会社を取材したことがあります。2階建ての倉庫のような建物の1階部分に、荷を運ぶトラックがどんどんと到着し、荷物を積んで出ていきます。2階では、1階で出荷する作業の段取りをつける作業をしています。この2階が障害者雇用の現場になっていました。
 2階の障がい者雇用グループが主に行っているのは、出荷前の準備、出荷物の作り置きなど、出荷の補助的な部分です。これが上手く機能して、会社全体の生産性が格段に高まっているのだと、ご担当の方がお話してくださいました。「物流の仕事は段取りが重要なので、障がいがある社員の補助作業のおかげで、最終工程の出荷時間が大幅に短縮されている。障がい者雇用で、会社の生産性が飛躍的に向上している」と満足そうに話しされていました。出荷物にいれる書類の帳合い、製品の仕分け、箱詰めなど、10名程度の障がい者枠で雇用された職員が、各自の担当作業をもち、できたら管理社員に報告してチェックする方式をとっていました。
 他にも、筆者は、精肉業、生花業、クリーニング業などでも、同じ様な考え方で障がい者を雇用し、企業全体の生産性をあげている事例を取材したことがあります。例えば、精肉の卸売りの会社では、小売店から注文入ったら、すぐに肉を出荷できるように、一定量の肉の塊を障害者雇用の社員がつくっておくのだそうです。その出荷前準備作業により、注文が入った際の発送作業が早くでき、生産性をあげている会社があります。
2 「業務の切り出し」「段取り業務」が障害者雇用で生産性を生むキーワード
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 企業が障がい者雇用を成功させようとするならば、「業務の切り出し」「段取り業務」がキーワードになると考えています。社内業務管理を見直し、事前に準備しておくと効率よく回ると思える社内業務が具体的にあるのであれば、障害者雇用で生産性をあげるチャンスが会社にはあります。まずは、普段行っている仕事を書き出してみるのがよいと考えます。週20時間以上の業務を確保できるのであれば、すぐに障害者雇用を始めるべきと考えます。
 もちろん、障害がある方の中には、仕事の技術をもっており、前面に出て活躍できる方もいらっしゃるかと思います。しかし、多くの障害を持った方については、社会経験や職務経験が浅い場合が多く、技術を求められたり判断や責任を伴う業務で前面に出るよりも、段取り業務を確実に行っていただくことで、会社の生産性向上に貢献していただくのがよいと考えます。
 私の会社では、社会保険労務士事務所で1名、福祉業で3名の障害のあるスタッフを雇用しています。
 社会保険労務士業では、段取りをつける業務として、次のような業務を行っていただいています。
・社会保険や雇用保険の電子申請の入力業務
・顧客からきた出勤簿の入力業務
・助成金書類などの入力業務
・郵送物の封筒をつくる作業、封入する作業
 いずれも提出する前の一次入力を行っていただいています。求める能力は、パソコンをある程度使えて入力ができること、クラウド上に保存してあるデータの保存場所の理解ができることです。
 障害福祉サービスで3名雇用しているスタッフには、不規則なできごとが多い福祉の現場ではありますが、極力、不規則なできごとが起きにくい役割をみつけて、業務を割り振っています。
・通所の就労支援事業利用者さんの定型的な業務チェック
・通所の就労支援事業でスタッフ2名、利用者さん5~6名で作業をするときのスタッフ
の補助業務
・ある程度の自立度が見込める利用者さんの送迎付き添い
 私の会社では、今後、会社の業務を整理することで、障害のあるスタッフに活躍していただく余地がまだまだあると考えています。障害のあるスタッフが仕事のスキルをあげるというよりは、会社が業務を整理して、事前準備の業務、定型的な業務をしていただくような環境をつくることで、障害のあるスタッフが安定して業務に取り組むことが出来、結果、会社の生産性はあがり、障害のあるスタッフのスキルもあがっていく、そんなサイクルをつくっていきます。
3 特に知的障がいがある人の雇用に関して
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 私の息子には、重度の知的障がいがあります。複雑なことを理解したり、判断したりするのが苦手です。ただ、一度覚えた仕事は続けることが得意です。それも、やらされるのではなく、決まり事をきまったように続けるのが、本人は心地よく楽しそうです。
 決まったことを続けられる特性は、障害福祉の分野で、時に「こだわりの行動」などと言って、ネガティブにとらえる向きもあります。しかし、私は息子の続けられる能力を、働く上での強みととらえています。
 支援学校を卒業した当時、企業に雇われるのは難しかったのですが、家族で手打ちうどん屋を始めました。以後7年間ずっと息子は、うどんをこねて、伸ばして、切る作業を、毎日、毎日繰り返しています。うどんの麺づくりは、難しい作業ではありませんが、やり続けるのは、簡単ではありません。知的障がいが重い息子は、うどんづくりの行程を覚えるのに通常成人が1日で覚えるところ何か月もかかりましたが、一度覚えると、続ける力は圧倒的に強くありますので、その特性を活かして、うどん店は今年で8年続いています。
 知的障がいのある人が活躍する障害者雇用の現場をつくるには、知的障がいのある人が決まった仕事のやり方にあわせていくよりも、会社側が知的障がいのある人の障害特性にあわせて仕事をつくっていくのが成功の鍵です。私の息子のように、一度仕事を覚えると、生産性を発揮し続ける力に優れた能力をもった方が沢山います。障害者雇用をビジネスとして、働く場をつくっている会社では、「知的障がいのある人が継続的にできる仕事」を一つのテーマにすることは、有効であると考えます。
 本稿では、障がいのある人が活躍している障害者雇用の現場をテーマに書きました。場をつくるのは、時間を要する作業ではありますが、真に生産性に貢献する障害者雇用の場をつくることに成功すると、長く続くものであります。私も、今後、業を行っていく目標としていきたい所存であります。
前田福祉社労士事務所 代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka
前田福祉社労士事務所
代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka

東京学芸大学卒業後、あきる野市社会福祉協議会に11年間勤務。障がい者施設で支援について学ぶ。平成23年に社会保険労務士として独立し、福祉施設の労務管理を業として行いながら、法定雇用率に関わらず障害者を雇用している中小企業の取材活動を行う。

https://usei116.com/


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