<宗野永枝氏のコラム>
キャリアコンサルタントから見た農園型・サテライト型の障害者雇用について
~IBUKIとINCLUの視察から~
はじめにこのたびキャリア相談の面でJEAPの会員企業様をサポートさせていただくことになりました宗野です。
千葉でキャリアコンサルタントとして開業、多様な人材の雇用拡大をビジョンに掲げて、個人のキャリア相談や企業のバックオフィスのサポートをしております。
さて今回は会員企業のスタートライン様(以下SL社)の事業所2箇所を視察させていただきました。障害者雇用の需要が急激に高まり続ける昨今、障害者雇用支援サービスをサポートするキャリアコンサルタントとして私が感じたことをお伝えします。
今回視察した施設は以下の2箇所です。
・IBUKI YOKOHAMA FARM3(横浜市港北区)
・INCLU みなとみらい第1センター(横浜市西区)
IBUKIの詳細はこちらからINCLUの詳細はこちらからIBUKI YOKOHAMA FARM3にて
IBUKIは横浜・大阪に22拠点ある屋内農園型の事業所で、今回見学したYOKOHAMA FARM3は、北新横浜から大通りを200mほど歩いた工場や倉庫が立ち並ぶエリアに位置します。外観はさわやかなミントグリーンの壁にIBUKIのロゴ。建物に足を踏み入れるとハーブの香りに包まれます。
栽培をしているエリアに入る際は、作業着とマスクを着用して見学しました。
図1 「IBUKI」の仕組み (スタートラインウェブサイトより引用)
IBUKIの特徴は、屋内型農園で複数の企業に水耕栽培の設備とノウハウ提供、雇用の支援をしていること。単なる「場所貸し」ではなく、管理者に対しての技術支援、研修のノウハウや科学的根拠に基づくアセスメントツールを提供しています。
栽培をする執務室は、一部屋ごとに区切られていて白衣を着て作業をしているため、一見すると研究所です。ここではハーブや葉野菜など、販売用ではなくあくまで自社消費のために生産されています。
一区画につき一企業が利用しており、雇用する障害者3名につき企業の管理者1名が栽培に従事しています。そしてその管理者をサポートするのが常駐のSL社社員(以下スタッフ)の役割ですが、今回案内していただいたCBSヒューマンサポート研究所 の小倉所長によれば、ここで働く方の障害はさまざまであり、「本人のセルフマネジメントスキルを育むことを大切にしている」という言葉は腑に落ちるものでした。
INCLU みなとみらい第1センターにて
夕刻、IBUKIをあとにして高島町駅にほど近いオフィスビルに入るINCLUへ。2フロアにまたがるこの事業所は複数の企業がサテライトオフィスとして利用しています。
私が見学したフロアは、ゆったりとした通路と広い執務室、開けた共有スペース、管理者用の執務室も用意されていました。
フロアごとにSL社スタッフが常駐していますが、障害者の就業管理やキャリア開発はあくまで利用企業が主体であり、スタッフは利用企業の従業員や担当者と定期的に面談を実施し、アセスメントや障害者雇用のノウハウを提供しています。
小倉所長によれば、INCLUを利用するクライアント企業で働く障害者が本社に異動する例や、クライアント企業が障害者マネジメントのノウハウを得たことでINCLUの利用を「卒業」するケースもあるとのことです。
図2「INCLU」の仕組み(スタートラインウェブサイトより引用)
キャリアコンサルタントの視点から
今回の視察で感じたことはおもに2つありました。
まずIBUKIのような農園型雇用支援サービス事業所は、障害者雇用の選択肢の1つとして重要な役割を果たしているということ。
「企業で働くか、福祉施設で働くか」という選択肢が複数あることは、障害者が主体的なキャリアを築くために欠かせません。そして賃金水準、社会との継続的な関わり、セルフマネジメントスキルの向上などを個別にサポートしてくれるIBUKIのような事業所の存在は非常に価値が高いと感じます。今や障害のある子どもを持つ親も珍しくなく「働く選択肢が複数ある」ということは、雇用する企業側にとってだけでなく、就業する本人やその家族、さらには社会全体において「なくなったら困る」サービスになっていることが伺えます。
ふたつめは、SL社の現場に常駐する社員のように支援する側のスタッフのキャリア開発も重要だろうということです。彼らが組織の期待と自分の志向を調和させながら働き続けることができれば、障害者雇用市場の持続的な発展につながるでしょう。
障害者が自発的に職能を獲得することは困難でも、適切なタイミングで有効なサポートが得られれば、その能力を伸ばすことができます。それは、INCLUのクライアントが「卒業する」ケースがあるということで示されているでしょう。
ノウハウを持つSL社のスタッフがクライアントや領域を広げることによって、本質的にインクルーシブな世界をつくることに資することになるのではないでしょうか。
おわりに
私は障害者雇用は「企業がしなければならない責務」と捉え、企業がインクルーシブな世界をつくるドライバーになると期待しています。しかし前回のメルマガのレポートにも書かれていたように、社会全体において「制度不良」があることは否めません。
今回の視察では、障害者雇用支援サービスを十把ひとからげで捉えるのではなく、より解像度を上げて個々の企業の取り組みを見ていく必要性を感じました。
そして障害者雇用のしくみを有機的なものにし、発展的な未来を創造するため、企業努力を促す役割として私も会員企業の皆様のお役に立てるよう取り組んでまいりたいとあらためて考えた次第です。
今回視察にご協力いただいた株式会社スタートラインの小倉様、スタッフの皆様、JEAP事務局の大森様に心より感謝申し上げます。
宗野永枝 / Muneno Hisae
キャリアコンサルタント、通訳案内士。
日本キャリア開発協会会員。
国際協力NGO、国内文具メーカー勤務を経て2021年創業。
法人のバックオフィス支援として人事制度コンサルティング(キャリアパス制度支援)、経理コンサルティングを提供。また個人のキャリア支援として、会社員・フリーランス・求職中の方々にキャリアプラン・ライフプラン作成サービスを提供している。
得意領域は、外国人や障害者の方など労働市場におけるマイノリティの方々への就業の機会獲得・事業創出、およびメンタリング。