2024.06.26

<前田 豊社労士の連載コラム 全11回>
法改正と障害者雇用の実務
第1回 改正障害者雇用促進法~雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化について

<前田 豊社労士の連載コラム 全11回>
法改正と障害者雇用の実務
第1回 改正障害者雇用促進法~雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化について

はじめに
令和5年4月1日施行の改正障害者雇用促進法5条により、障害者を雇用する事業主の責務に、適当な雇用の場の提供、適正な雇用管理等に加え、障害者の職業能力の開発及び向上に関する措置が含まれることが明確化されました。
障害者雇用率を満たしたい会社が、障害者雇用をビジネスにしている会社に委託して、障害者の採用から労務管理までを一手に委託し雇用率を達成するやり方が、障害者雇用促進法の趣旨にそぐわないのではないかとの議論が国会でもなされました。結果、事業主の責務に、障害者の職業能力の開発及び向上に関する措置が含まれることが明確化されたのです。
本稿では、障害者を雇用する企業が、障害者の職業能力の開発及び向上をどのようにとらえていくと、障害者雇用を上手く進めやすいのかについて、考察していきます。
「障害者の職業能力の開発及び向上」とは?
障害者雇用促進法第5条
全ての事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有能な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。


障害者を雇用する企業にとって、障害者の職業能力の開発及び向上のために必要な措置を行うことが、事業主の努力義務であると明記され、令和5年4月1日より既に施行されています。では具体的に「障害者の能力開発及び向上のために必要な措置」とは何を指すのでしょうか。
労働政策審議会障害者雇用分科会(令和5年4月17日)の議論では、障害者の能力開発及び向上の取り組みとして望ましい取り組みのポイントを次のとおりにあげています。

① 企業における人材確保・育成の観点から、雇用後においても障害者本人の希望等を踏まえた計画的かつ必要な職業能力開発・向上の機会の提供
② 人事評価制度や報酬、昇格などにより、一人ひとりが目標を持ち、やりがいや意欲をもって働き続けること。
③ 定期的な面談等を通じ、障害者個々人の職業能力や職務遂行の状況、体調、モチベーション、必要な合理的配慮等について把握し、アセスメント結果を障害者本人と共有すること。継続的なモニタリングが障害のある方々の職業人生全般においても必要不可欠である。
④ モニタリングに基づき、業務分担や配置、提供する合理的配慮の内容についてその都度見直すこと、報酬や等級等の処遇に反映させていくこと

取組のポイントをみると、障害者雇用は何か特別なことではなく、仕事の達成度を評価して処遇に反映すること、研修の機会を設けることなど、通常スタッフの人材育成の一環であるとみることが出来ると思います。ただ、障害者雇用の場合は、ご本人の体調管理、勤務時間、業務量の管理などで、会社に求めるニーズが人により大きく異なります。ですので、障害者の職業能力の開発・向上を図るには、一人一人に対しての、継続的なモニタリングが一般的な人材育成に比べて、より大切になります。
人材育成のポイントは「継続的なモニタリング」
筆者は、障害者の就労支援をビジネスにする会社を営んでおり、スタッフとして3名障害者雇用しています。日々感じているのが、ご本人達が抱えている働きにくさは、雇用管理側の想像の範囲では中々追いつかないことです。例えば、会社側が、本人の職務能力からまったく問題がないと想像してお願いした仕事であっても、ご本人にとっては、仕事の難易度というよりも、今までしたことのない新しい仕事であることに、大きなストレスがあることを後から知ることがあります。
企業の障害者雇用担当者からも、精神の疾患を抱えているスタッフが、昨日まで能力を発揮して働いていたのですが、翌日に就労意欲が減退して、出社できなくなることがあると話を聞くことがあります。

大切なのは、継続的にモニタリング(個々人の職業能力や職務遂行の状況、体調、モチベーション、必要な合理的配慮等について見直し)を行い、ご本人達が会社に求めるニーズの理解を継続することです。障害者個々に応じた職場環境を整えた上で、研修などの職業能力の向上、人事評価などにつながっていくと考えています。

本稿では、障害者雇用を行う事業主に課されている雇用の質の向上のための責務について書かせていただきました。基本的には、一般的な人材育成と変わらないのですが、障害者雇用の場合は、一般雇用に比べて、個の抱えている会社へのニーズが異なることが多いので、継続的にモニタリングを繰り返して、本人のニーズ理解に努めることが、障害者の職業能力開発、雇用の質向上につながると考えています。
前田福祉社労士事務所 代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka
前田福祉社労士事務所
代表 社会保険労務士・介護福祉士 前田 豊/Maeda Yutaka

東京学芸大学卒業後、あきる野市社会福祉協議会に11年間勤務。障がい者施設で支援について学ぶ。平成23年に社会保険労務士として独立し、福祉施設の労務管理を業として行いながら、法定雇用率に関わらず障害者を雇用している中小企業の取材活動を行う。


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