2024.06.26

<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第5回「自己紹介状」の確認を 職業評価経た人から採用

<貝沼春樹社労士の連載コラム 全8回>
中小企業必読! はじめての障害者雇用
第5回「自己紹介状」の確認を 職業評価経た人から採用

仕事内容不一致などが離職理由
 厚生労働省の平成25年度調査によると、精神障害者の離職理由には、「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金、労働条件に不満」、「疲れやすく体力、意欲が続かなかった」、「症状が悪化(再発)した」、「仕事内容が合わない(自分に向かない)」などが挙げられている。筆者は、これらの離職理由はしっかりしたアセスメントとそれに基づく適切なジョブマッチングで、防止できると考えている。
 アセスメントとは、就労前に就労支援機関などが本人に対して行う事前調査・職業評価を指す。本人の就労に関する希望、就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状、就労継続のための望ましい環境などについて、本人と支援者がやり取りしながら協同で検討する。本人の長所や成長可能性、就労上の課題などを適切に理解し、就職に向けた支援や訓練計画や必要な配慮事項を具体的に検討する。これに基づいて本人は、職業準備性(働くために必要な対人技能など)を高める訓練をしていく。
 アセスメントのやり方や使用するツール類は就労支援機関によって異なる。高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の下部組織である地域障害者職業センターでもアセスメントをしているので、JEEDの「就労支援のためのアセスメントシート」をネットでご覧いただくとどのような内容かが分かる。良い就労支援機関はアセスメントをしっかりと行い、利用者の就労に向けた計画を立てて訓練をしている。 そして、支援機関と利用者は協同して、企業向けにアセスメントの結果をまとめた「ナビゲーションブック」(自己紹介状)や「就労パスポート」を作成する。面接などで企業に提示したり、本人から企業に説明してもらう際に活用していく。たとえば、就労パスポートには、本人が働くうえでの自分の特徴(障害特性など)や希望する配慮(合理的配慮など)などが整理してある。これまでの職務経験、仕事上でアピールできるポイント、体調管理面での自分の特徴、希望する働き方、コミュニケーション面や作業遂行面での自分の特徴などが記載してある。
 採用担当者からすると、ナビゲーションブックなどの提示があれば、これらを確認しながら採用の可否を検討できる。本人に合った仕事内容を用意したり職場環境の整備や就業上の配慮を勘案することも可能となる。適切なジョブマッチングにつながり、離転職防止、長期定着に結び付く。
 筆者は、アセスメントを受けて、ナビゲーションブックや就労パスポートを作成し、それらを企業に対して提示している障害者の雇用を推奨している。この手順を踏んでいる人材の方が、採用の失敗リスクは低いと考えている。ナビゲーションブックなどの内容は、ネット上のひな型を確認しておけば、一般的にどのような事柄が記載されているかが分かる。

病名より個々人の症状で配慮を
 障害者を雇用する場合、採用しようとする人材の障害特性などについて、どのような合理的配慮を提供したら良いのか悩むケースも少なくない。注意すべきポイントは「病名にとらわれないこと」だと考える。統合失調症やうつ病、双極性障害など、その病名における一般的な症状や障害特性は知られているかもしれないが、あくまで“一般論”に過ぎず、個々の症状や障害特性の出方は千差万別である。症状が出る人もいれば出ない人もいるし、出る場合でも強弱には差がみられる。症状や障害特性が全く同じ人は一人もいない。
 したがって、「病気Aの特徴的な症状は○○だから、配慮○○をすれば良い」、「病名Bの人は○○という傾向があるから対応○○が必要」ではなく、「Cさんは症状○○で障害特性として○○があるからこの配慮が必要」などと個人ベースでの対応が欠かせない。病名で先入観を持たず、その人自身の理解に努める必要がある。
 とくに精神障害の場合、表向きの病名は1つだが、実際には複数の症状を抱えているケースが見受けられる。合併症を抱えているのに開示していないケースのほか、途中で病名が変わるパターンも考えられる。根っ子に発達障害(神経発達症:自閉スペクトラム症=ASDや注意欠如・多動症=ADHDなど)があることも少なくない。発達障害だが、実は知的障害(精神遅滞)を合併していることもある。病名にとらわれると対応を誤りかねない。
 アセスメントの内容、就労パスポートなどの情報、本人の状態をしっかり観察して理解することはとても大事になる。ただ、これを企業単独で行うのはあまりに荷が重い。就労開始後には、障害者職業センターの障害者職業カウンセラーやジョブコーチの支援を受けることを考えた方が良い。
 注意したいのは、就労前に行うアセスメントは、就労支援機関の施設内などの一定の制約があるなかで実施されている点である。各種検査も、あくまで“その時点での本人の状態”を確認している。つまり、就職後の状況や環境とは異なる状態で行われている。就職後は常に、職場での行動観察や定期的な面談をしていき、随時、症状の確認をする必要がある。
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所 代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所
代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹

三井住友海上火災保険とその関連会社に41年勤務。営業・経営企画・人事労務、関連会社の役員等を経験。その経験を活かして経営者目線で人事労務コンサルティングを行っている。特に障害者雇用に注力。精神保健福祉士・訪問型ジョブコーチでもあり、精神障害者・発達障害者・知的障害者を雇用する企業への支援を得意としている。


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