法定雇用率、「大幅」引き上げの実態~日本の「障害者雇用促進法」は厳しいのか?~
障害者雇用の法定雇用率「引き上げ」まで、残り3カ月を切りました。障害者の雇用数は年々増え続けているものの、就労環境が広がっているかどうかとなると課題山積で、企業も悩んでいるのが実情です。企業は現行の2.3%から2.7%、公的機関の場合は現行の2.6%から3.0%(教育委員会は2.5%から2.9%)にそれぞれ引き上げられます。
負担を緩和するため、本年度は現行通りに据え置かれましたが、年明けの24年度から2.5%、26年度から2.7%に段階的に引き上げられます。実は、民間の2.7%への移行について厚生労働省は当初、26年4月を予定していましたが、企業側の反発が強く、3カ月後ろ倒しして同年7月からの引き上げで決着した経緯があります。わずかな期間ですが、こうした“せめぎ合い”をみると、現場における障害者雇用の難しさの一端が垣間見えます。
除外率制度の一律引き下げも実施
障害者の就労になじまない業界に設定されている除外率制度も、25年度から一律10ポイント引き下げられます。これに伴い、現在5%の非鉄金属製造や倉庫業など、10%の水運業や採石業などは除外率の適用対象から外れます。
企業の「2.7%」の根拠は?
厚労省が考える「2.7%」の算出根拠はシンプルです。法定雇用率は障害者(身体、知的、精神)の雇用者数と失業者数を分子に、常用労働者と失業者の合計を分母に割った数字となります。障害者の雇用数が増えると雇用率は上昇しますが、今回は短時間労働者(週10時間以上~20時間未満)の適用拡大で1人につき0.5人とカウントすることが24年度から始まります。
厚労省の試算では、対象となる短時間労働者は約10万人いて、常用雇用者と失業者にこれを加えると約102万人。一方、全ての常用労働者と失業者に短時間労働者の半分(0.5人分)を足すと約3753万人となり、雇用比率は2.71%になります。試算通りに上昇するかは未知数ですが、厚労省は短時間労働者の拡大カウントが法定雇用率を“自然に”押し上げるとみています。
足元の障害者雇用の動きと就職状況
障害者の雇用数は確実に増えています。厚労省が毎年公表している2022年「障害者雇用状況」によると、企業の雇用数は約61.4万人(前年比2.7%増)、実雇用率は2.25%(同0.05ポイント増)。公的機関が約7.1万人(同2.7%増)で、合わせると雇用数は68万人を超えます。とりわけ、企業の場合は2011年から11年連続で雇用数、実雇用率とも上昇しています。
これをハローワーク経由の就職状況をみると、2021年で新規求職件数が約22.4万件だったのに対して、実際の就職件数は約9.6万件の43%程度に過ぎず、慢性的な“買い手市場”となっています。企業と求職者のニーズが一致しないためですが、企業側が障害者向けの仕事の創出や合理的配慮義務(できる範囲の配慮)を欠いていることも一要因とみられています。雇用数は上昇していますが、就職の実態はこれが現実です。
法定雇用率も納付金も欧州、アジア各国より低い設定
未達成企業を減らすため、障害者雇用促進法では「納付金」制度を定め、未達成人数分の“罰金”を支払ってもらい、それを達成している企業に「調整金」などで配分する方式を採用しています。しかし、企業には「採用の自由」があり、障害者を雇用するかどうか、法定雇用率を達成するかどうか、最終的には企業側の裁量に委ねられていることから、法的に雇用を強制することはできません。
ところで、日本企業の法的責任は世界に比べて厳しいのでしょうか。実は、かなり緩いと言われています。法定雇用率の適用は従業員43.5人未満の企業は対象外、納付金の適用も同100人以下の企業は対象外となっています。法定雇用率も納付金も、総じて同様の規定を設けている欧州、アジア各国より低く設定されています。また、先に触れた「除外率制度」も、障害者差別の観点から2004年に廃止されるはずでしたが、20年にわたって温存されてきており、障害者雇用の拡大余地はまだ十分ありそうです。