2024.03.26

「障害者雇用支援サービス」を巡る報道と行政の変遷
~現在地から見える課題と業界団体活動~

「障害者雇用支援サービス」を巡る報道と行政の変遷
~現在地から見える課題と業界団体活動~

「コロナ禍」前夜にマスコミ登場、2022年改正の成立時に「逆風」
サテライトオフィス型と農園型を軸とする「障害者雇用支援サービス」。2010年前後から着実に成長の道を歩んでいますが、一部から事業活動や運営スキームに対して「疑問の声」が聞かれます。「法の趣旨に合っているか」という観点からの指摘が専らで、行政サイドも「労働法制に照らして指導監督を継続する」というスタンスです。

新年度の4月からは、法定雇用率の引き上げをはじめとする障害者雇用促進法を巡る政省令が施行され、そうした全体感の中で「支援サービス」の事業活動も注目度がさらに高まる見通しです。

こうした「新たなフェーズ」を迎えるにあたり、この数年の業界を取り巻く動きについて時系列で整理し、現状認識を共有したいと思います。
毎日新聞が「分断」「数合わせ」の表現で指摘
2019年10月8日=毎日新聞が「障害者就労定着か共生か 障害者雇用『外注』に賛否」の見出しで問題提起。続けて、11月19日に「企業の障害者雇用『外注』 分断広げる『数合わせ』」のタイトルで続報。これが、マスコミが取り扱った最初の記事で、運営スキームに対する批判で構成されています。ここで既に個社名が登場していました。

NHKが「代行ビジネス」の呼称で取り上げ
2022年11月4日=NHKの朝の報道番組「おはよう日本」で、「代行ビジネス」として取り上げられ、当時の厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課長の小野寺徳子氏、解説者として慶應義塾大学商学部教授の中島隆信氏が問題点について指摘。テレビで扱われたのは初めて。小野寺氏と中島氏はともに障害のある子供を育てているという立ち位置もあります。

改正法案の審議で「代行ビジネス」への懸念浮上
2022年12月5日=障害者雇用促進法が臨時国会で審議される中、「代行ビジネス」が国会審議に浮上します。参議院厚生労働委員会で、日本維新の会の松野明美氏が「代行ビジネス」について質問。参考人として藤井克徳氏(認定NPO法人日本障害者協議会)が委員会に招かれ、松野氏の質問に答弁しました。松野氏も障害のある子供がいます。

こうした質疑などを踏まえて、改正障害者雇用促進法の成立時に衆議院と参議院の双方の附帯決議に「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」が盛り込まれました。

共同通信の全国配信で課題認識が一気に広がる
2023年1月9日=共同通信が「障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用」との記事を全国の地方紙に配信。個社名を挙げて運営方法を糾弾しました。記事を執筆した共同通信編集委員の市川亨氏は、続けて「論説・核心評論 真の『共生』につながるのか」を全国配信。「うまいことを考えるものだ」「それをやっちゃあ、おしまいだろう」などの言葉を用いて指摘しました。市川氏も障害のある子供がいます。また、市川氏はその後も、福祉関係の業界紙などにも同様の趣旨で寄稿しています。

厚生労働省が初の実態調査を公表、事業スキームは「容認」
2023年4月17日=厚生労働省は「いわゆる『障害者雇用ビジネス』に係る実態把握の取組について」を公表。3月末時点で実施企業は23法人、障害者の就業場所は125カ所あり、最も多いのは「農園」の91カ所で、「サテライトオフィス」が32カ所。利用企業は延べ1081社以上、就業障害者は6568人以上と発表し、労働政策審議会の障害者雇用分科会に報告しました。これは、国会の附帯決議に伴い、3月までに行政として「何らかの対応をしろ」との要求に応えたものです。

厚生労働省としては、懸念事項として「在籍型出向の場合など、雇用率達成のみを目的にした利用」「利用企業が主体的に業務を選定・創出しようとしていない場合があり、その場合は障害者の特性や必要な配慮への確認が十分でない」「無期雇用転換ルールの回避策として活用されている可能性」などを挙げました。同時に、「障害者の特性を踏まえた業務選定、マッチングを通じて戦力化するノウハウを、他の全従業員の能力開発に生かせることができ、経営改善に貢献」「障害者自身が商品開発に参画することでヒット商品が生まれ、事業拡大に貢献」などのメリットも挙げました。

報告を受けた労働政策審議会では、出席委員から「そもそも、行政は代行ビジネスを認めるのか」「雇用の質向上という点を考えると、懸念が強まる」など否定的な意見がある一方、「好事例とそうでない部分を明確に区分けして、提示してほしい」などの要望もあり、厚生労働省も事例を精査してパンフレットを作成する考えを示しました。厚生労働省は、批判勢に押されてはいましたが、事業スキームを「認めない」と切るのではなく、実態を丁寧に調べて「好事例も重視したい」のスタンスを維持しました。
業界団体が発足、多様化する就労ニーズへの対応と業界の健全発展目指す
2023年9月22日=「日本障害者雇用促進事業者協会」が発足。障害者雇用をめぐる法整備が拡充し、包摂的社会の意識が広がるなか、多様化する就労ニーズへの対応や企業の雇用主責任を重視した適正な支援などを推進。直面する諸課題に向き合い、業界全体の信頼向上と障害者雇用の健全な発展を目指すことを掲げました。

厚生労働省が実態調査「第二弾」を公表
2023年12月27日=厚生労働省は「いわゆる『障害者雇用ビジネス』に係る実態把握の取組について」の第二弾を公表。11月末時点で実施企業は32法人、障害者の就業場所は152カ所。最も多いのは「農園」の110カ所で、「サテライトオフィス」が38カ所。利用企業は延べ1212社以上、就業障害者は7371人以上となり、いずれも前回調査より増加しました。加えて、把握した懸念される課題と具体的な指導助言の内容なども併せて報告しました。

「質の高い」障害者雇用に向け事業者の役割を深掘り、促進協の勉強会
2024年2月28日=日本障害者雇用促進事業者協会が、「障害者雇用最前線~雇用創出の現時点と我々の役割を考える」と銘打ち、リアルとオンラインのハイブリッドで会員企業向け勉強会を初開催。専門家による問題提起や会員企業の事例発表、グループディスカッションなどを通して、質の高い障害者雇用に向けて多角的に研鑽を積みました。

法定雇用率の段階的引き上げがスタート
2024年4月1日=企業には全従業員数に対して一定割合以上の障害者の雇用が義務付けられており、法律に基づいて「5年に1度の見直し(雇用率アップ)」があります。4月から0.2%アップし、段階的引き上げの「第一弾」が始まります。

促進協、研鑽と対話で本格始動へ
こうした流れや経過をみてみると、「障害者雇用支援サービス」の意義や役割の認知を広げる活動は「緒に着いたばかり」と言えます。これから先は、業界団体または個社企業としての研さんと成長に併せ、批判する団体や機関との積極的な対話も大切な活動の一環となります。促進協は、必要なタイミングで機を逃すことなく発足しましが、半年の助走期間を経て、新年度から更なる前進が期待されます。
取材協力:株式会社アドバンスニュース
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