2024.04.23

障害者雇用の「実態調査」と「状況調査」とは
~110万人と64万人の違いと調査方法~

障害者雇用の「実態調査」と「状況調査」とは
~110万人と64万人の違いと調査方法~

4月に法定雇用率が引き上げられたことに伴い、障害者雇用について様々な視点や角度から取材・執筆した報道が増えています。こうしたなかで、基本的な足元の動向として広く一般紙で記事化されるのが「雇用者数」です。

厚生労働省は、「障害者雇用実態調査」(実態調査)と「障害者雇用状況調査」(状況調査)を公表していますが、同じ時点(6月1日)を切り出して調査しているにも関わらず、その数値は大きく異なります。最新の公表結果では、「実態調査」が110万7000人、「状況調査」が64万2178人となっており、多くのメディアはこの数字をタイトルにして報じていますが、執筆している各社記者の間でも「異なるワケ」をあまり把握していない様子が見受けられます。

障害者雇用の新たなサービスを検討する時も、あるいは内部や外部の顔触れと議論する際にも、「雇用者数とその推移」のデータは大事な基軸です。厚生労働省職業安定局の障害者雇用対策課への取材も交え、最新の「2つの調査結果とその違い」について紹介します。

「実態調査」と「状況調査」の結果概要(ポイント)
【実態調査】(3月27日公表・2023年6月1日現在)
・障害者数(従業員5人以上の事業所)=110万7000人(前回2018年比25万6000人、30.0%増)
・身体障害者=52万6000人(同10万3000人、24.3%増)
・知的障害者=27万5000人(同8万6000人、45.5%増)
・精神障害者=21万5000人(同1万5000人、7.5%増)
・発達障害者=9万1000人(同5万2000人増、約2.3倍)
・身体障害者の種類別=「肢体不自由」35.4%、「内部障害」30.6%
・障害の程度=「重度」44.4%、「中度」32.6%、「軽度」15.1%
・雇用形態=「無期・正社員」53.2%、「有期・非正規社員」24.6%
・週所定労働時間別=「週30時間以上(通常)」75.1%、「週10時間以上~30時間未満」22.8%

【状況調査】(2023年12月22日公表・2023年6月1日現在)
・障害者数(法定雇用率の対象企業)=64万2178.0人(前年比4.6%増)
・実雇用率=2.33%(同0.08ポイント増)
・法定雇用率(2.3%)の達成企業=5万4239社、比率50.1%(同1.8ポイント増)
※短時間勤務は0.5人にカウント
・身体障害者=36万157.5人(同0.7%増)
・知的障害者=15万1722.5人(同3.6%増)
・精神障害者=13万298.0人(同18.7%増)
・法定雇用率の未達成企業=5万3963社
※1人も雇用していない企業は3万1643社(58.6%)
5年に1度の「実態調査」と毎年の「状況調査」
読者が障害者雇用の統計ニュースに触れると、自分の体感値をイメージしながら「どのくらいの規模感なんだろう」と真っ先に雇用者数に関心を抱きます。各社記者も行政から調査データが公表されると、そこにストレートに応える記事を書く傾向にあります。

そもそも「実態調査」は5年に1度で、「状況調査」は毎年という「調査ターム」の違いがあります。そして、この2つの調査結果が5年に1度、同じ年の近い期間に「厚生労働省発信」で報じられるため、タイトルや記事を斜め読みする一般読者には少々混乱が生じてしまっている模様です。

確かに、直近でみると、「2023年6月1日時点」とする「実態調査」が今年3月公表、「状況調査」が昨年12月公表となっており、3カ月の間に似たような記事(厳密には調査項目なども異なる)が厚生労働省から公表されています。
「5年に1度だけ」の“現象”ですが、各社記者もそこの違いを記事で触れずに、あるいは知らずに執筆してしまうことがあるようです。

決定的に異なる「調査対象」と「重複する障害のカウント方法」
そもそも、「雇用者数」が大きく異なる理由として、この2つの調査は調査対象が異なります。「実態調査」は従業員5人以上の民間企業(事業所)が対象で、直近の調査では無作為に約9400事業所を抽出。事業所数は6406事業所で、回収率は 67.9%となっています。よって、精緻に表現すれば「実態調査」の雇用者数は「回収した内容を基にした推計値」となります。

一方で「状況調査」は、法定雇用率を義務付けられている従業員43.5人(2023年6月当時)以上の企業を対象にしています。2つの調査の「雇用者数」に違いがでても当然と言えるでしょう。

加えて、「実態調査」について掘り下げると、別な要素も見えてきます。1人の障害が障害別で重複する場合、それぞれの障害別雇用数にカウントしています。この障害別カウントの方式は前回調査(2018年)から導入。この件について厚生労働省は「調査方法を変えると前回比較やそれ以前からの推移が見えなくなるので望ましいことではないが、前回調査から変更した」と回答。「従って、前々回の2013年調査と前回の2018年調査の結果は単純比較できない」としています。

整理すると、今年3月公表の調査結果は前回(2018年)と比較できますが、それ以前の数値とは単純比較できないということです。

雇用者数上昇のなかで注目度増す障害者雇用
労働組合の連合を取材する記者懇談会のなかで、他社の若手記者から「障害者の雇用者数は110万人なの?64万人なの?」と尋ねられ、こんな身近にいる記者でも担当外だと理解が浅いものなのだと感じ、今回は厚生労働省に確認しながら「違い」を整理してみました。

企業で働く障害者の「雇用者数」の実像としては「状況調査の64万人よりは多く、実態調査の110万が近いもののあくまで推計値」といった感じです。ただ、企業だけでなく、福祉系での就労や公的機関(国・自治体・教育委員会・独立行政法人)での就労なども合わせると、障害者はもっと広く多く活躍していると推察されます。その分だけ現場での課題も多く、関係者が意を用いてそれぞれの立場から最善の対応を模索していることでしょう。

いま、「雇用の質」が中心テーマにあがり、障害者雇用のあり方が注目されています。企業系や福祉系、その他の就労方法も含め、「都市や地方に関係なく障害者にとって選択肢が多い社会」が期待されています。
取材協力:株式会社アドバンスニュース
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