2023.12.26

<貝沼春樹社労士の連載コラム>
ここがポイント!障害者雇用の事前準備 第2回

<貝沼春樹社労士の連載コラム>
ここがポイント!障害者雇用の事前準備 第2回

第1回では、企業が障害者雇用を始める上で必要となる推進体制と職場環境整備について解説しました。今回は、配慮義務を伴う安全対策、推進上の課題への対応策などについてお伝えします。

ポイントその2 安全対策
①安全(健康)配慮義務に留意
当然のことですが、障害のある人の場合であっても、事業主は、労働契約法第五条の安全(健康)配慮義務を負います。障害のある人は、障害によって、体調が変化しやすい、注意力・理解力・記憶力などの認知機能や物理的な身体機能の障害によって危険を察知し対処する力が低下していることがあります。コミュニケーションが難しいので危険に気づきにくいこともあります。企業では労働安全衛生法などの安全衛生に関する諸法令を遵守することは当然ですが、安全確保・事故防止のために要請される安全衛生のレベルは、個々の障害特性や症状を踏まえて、健常者以上に高く、かつ、きめ細かい対応が求められると考えられます。

現状では、危険作業や夜間業務に配置されるケースはあまりないと思われますが、配置場所・業務内容と求められる業務レベル・就業時間などの決定の際には、その業務により曝されるリスクを把握・評価して、一層の注意と配慮が必要になると考えられます。

②合理的配慮の提供
障害者雇用では、障害者雇用促進法第36条で合理的配慮の提供義務が求められています。これに基づき合理的配慮指針(障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針)や合理的配慮の事例集が公表されています。合理的配慮の一環としては、例えばトイレ、駐車場、階段・段差、点字ブロック、業務の見直し、マニュアル化など、障害のある方が職場での活動を可能とする環境整備(バリアフリー・ユニバーサルデザイン、視覚化による構造化など)をしなければなりません。ただ、指針・事例集では判然としないこともあり、企業は何をどこまでやれば合理的配慮を提供したことになるか悩むことが少なくありません。
ポイントその3. 社内での環境整備の進め方
①早い時期から専門家に相談して支援を受けるのがベスト
障害者雇用を始める場合は、最初から支援機関等の専門家の支援を受けることをお勧めします。そうすれば適切な障害者の採用、雇用管理やその他の対応に取組みやすくなります。障害者雇用を進める場合、会社方針の立て方、経営決定、推進体制、社内周知、社員各層への教育研修など、たくさんのことを行わなければなりません。これらを通して社内理解を深め、職場の受入れ体制整備、障害のある人の配置と業務内容の選定、配置後の長期定着と離職防止に向けて、本人および上司や職場の同僚への支援、場合によっては医療機関や家族などと連携して進めなければなりません。これを社内単独で進めることは容易ではないからです。

配置後も、障害のある人の体調変動や周囲の職場環境の変化、合理的配慮への対応、職場での人間関係の問題など、対応しなければならない課題がたくさん出てきます。問題や課題が出てくるのが当たり前というのか障害者雇用です。この場合も専門家に相談して進めることができれば、予防や適切・迅速な解決をするための負担を軽減することができるでしょう。

ここでいう専門家とは、各都道府県にある障害者職業センター(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構、通称JEED)、職場適応援助者(通称ジョブコーチ)、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、ハローワークの専門援助部門などですが、障害者雇用のコンサルティング会社もあります。これらの専門家・専門支援機関に早い時期に相談して支援してもらうとよいでしょう。

②本人と職場環境の両面から考える
適切な障害者雇用を進めるためには、障害のある人本人の問題だけに目を向けていては改善が進まないことがあります。本人は常に職場の各種の環境(同僚等との人間関係、騒音・光・温度、要求される仕事のレベル等様々)から影響を受け、職場は障害者から影響を受ける(受け入れる負担感、コミュニケーション、相互理解、業務指導等)という相互の関係であることを認識する必要があります。常に本人とそれを取り巻く環境の両面から見て、その両面に改善に向けてアプローチしていくことが大事です。
ポイント4. 最後に
障害者雇用は、試行錯誤の連続です。その会社・職場での種々の試行錯誤と苦労の積み重ねが必要です。障害者雇用は「何か課題や問題があって当たり前」です。しかし、会社の一貫した粘り強い対応と専門家の支援を受けながら試行錯誤をくり返して続けていくと、障害のある人は予想以上の能力を発揮し、会社と職場に大いに貢献してくれるようになります。時間はかかりますが、一歩一歩着実に進めていくことが大切です。
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所 代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹
あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所
代表 特定社会保険労務士 精神保健福祉士 貝沼 春樹

三井住友海上火災保険とその関連会社に41年勤務。営業・経営企画・人事労務、関連会社の役員等を経験。その経験を活かして経営者目線で人事労務コンサルティングを行っている。特に障害者雇用に注力。精神保健福祉士・訪問型ジョブコーチでもあり、精神障害者・発達障害者・知的障害者を雇用する企業への支援を得意としている。


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