使用者による「障害者虐待」、足元の状況と傾向
~雇用率引き上げに伴い、指導強化の労働局~
大幅増加、前年比「事業所9.7%増」「被害者30.7%増」
厚生労働省は毎年、障害者の雇用環境を守る観点から「使用者による障害者虐待の状況」を取りまとめています。直近の公表データは2023年3月末までを調査した2022年度版で、それによると、虐待の「通報・届け出」があったのは1230事業所(前年度と同じ)、対象になった障害者は1433人(同0.1%増)。このうち、労働局などの現地調査の結果、虐待が認められたのは430事業所(同9.7%増)、対象障害者は656人(同30.7%増)と大きく増えています。
被害者の障害別(重複)では、知的障害者が245人で最も多く、精神障害者が224人、身体障害者が155人。虐待内容(重複)は賃金不払いなどの「経済的虐待」が600人でダントツに多く、「心理的虐待」が47人、「身体的虐待」が24人など、前年度と同じ傾向が続いています。
虐待が認められた業種は、「製造業」が最も多い109事業所で、「医療・福祉」の91事業所、「卸売・小売業」の62事業所など。事業所規模では「5~29人」の零細が205事業所と半数近くを占めました。
「報告」「相談」「発見」の3方向から端緒を得る労働局
各労働局は、働く職場における「虐待」をどのように発見、指導監督しているのでしょうか。ルートは3つあり、(1)都道府県からの「報告」(2)労働局などへの「相談」(3)労働局などの「発見」――です。全体の約7割を占める(2)の「相談」は、被害を受けた障害者やその家族、同僚などから直接、労働局または労働基準監督署、公共職業安定所に障害者虐待のおそれがある旨の情報提供や相談があったもので、(3)の「発見」は労働基準監督署による臨検監督や公共職業安定所による事業所訪問などにおいて把握したものを指します。
虐待の定義としては5類型あり、「身体的虐待」「性的虐待」「心理的虐待」「放置等による虐待」「経済的虐待」とされています。これらの情報が厚生労働省の障害者雇用対策課に集約されるのですが、足元の大幅増加を受けて同対策課は「法定雇用率が段階的に引き上げられる初年の今年は、これまで以上に指導監督を強化する」との構えです。指摘を受けない環境整備は当然ですが、受け身の姿勢ではなく、企業自ら公益的・社会貢献的立ち位置から「虐待防止」を掲げるアクションや発信を講じることも効果的と思われます。
使用者による障害者虐待の事例と労働局の対応
【事例1】身体的・心理的虐待が認められた事例
<通報・届出の概要>
●障害種別:知的障害
●就労形態:正社員
●事業所の規模:5人~29人
●業種:生活関連サービス業、娯楽業
相談支援事業所の相談支援専門員から市町村経由でなされた通報事案。所属の上司から、懐中電灯で頭を殴られたり、大きな声で叱られたりしたとして、市町村に相談があったもの。
<労働局の対応>
労働局は、職業安定部(公共職業安定所)を担当部署として調査を実施。事業主に事情聴取したところ、相談支援事業所の相談支援専門員からの通報内容をおおむね事実として認めた。所属の上司による身体的虐待及び心理的虐待が認められたため、公共職業安定所は事業主に対し、障害者雇用促進法に基づき、定期的に面談の機会を設けるなどトラブルの早期発見のための仕組みを構築するなどの再発防止対策を講じるよう指導した。処理終了後、労働局は都道府県に対して情報提供を行った。
【事例2】性的虐待が認められた事例
<通報・届出の概要>
●障害種別:精神障害
●就労形態:正社員
●事業所の規模:5人未満
●業種:建設業
障害者本人からの届出事案。所属の上司から、髪を触られるなどの性的な言動を受けたり、繰り返し食事に誘われたりしたとして労働局に相談があったもの。
<労働局の対応>
労働局の対応 労働局は、雇用環境・均等部(室)を担当部署として、調査を実施した。雇用環境・均等部(室)が事業所を訪問し、事業主に事情聴取したところ、障害者本人からの届出内容をおおむね事実として認めた。所属の上司による性的虐待が認められたため、雇用環境・均等部(室)は、事業主に対し、男女雇用機会均等法に基づき、セクシュアルハラスメントがあってはならないことの方針の明確化やその方針の労働者への周知・啓発、相談窓口の設置などの再発防止対策を講じるよう指導した。処理終了後、労働局は、都道府県に対して情報提供を行った。
促進協が果たす役割
上記の通り、事案ごとに調査報告書が詳細に記述され、厚労省の同対策課で全体と詳細を把握して指導方針を各労働局に指示しています。最近の傾向として、障害者雇用の広がりとともに「虐待事案」も増加し、監督官庁が指導を強化していることをあらためて認識し、社内に周知徹底することをお勧めします。そして、障害者雇用が「量」と同時に「質も重視」へと移行する流れの中で、その牽引役として促進協が果たす役割はより大きくなっています。