2023.12.26

障害とは何かを考え、協働する人を育てる
~大学講演での学びと発見~

障害とは何かを考え、協働する人を育てる
~大学講演での学びと発見~

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11月29日講義終了後。横浜市立大学金沢八景キャンパスにて70名の受講生と記念撮影
11月はたくさんの現役大学生の皆さんに、「障害」をテーマにお話しする機会をいただきました。当協会主任研究員として、多くの学びと気付きがあり、今後の活動につながる貴重な経験となりましたので、ご報告させていただきたいと思います。

2つの大学での講義
フェリス女学院大学「企業と倫理」(11/15)、横浜市立大学「地域CSR論」(11/29)の各科目にて、特別講師を担当しませんか、と、影山摩子弥研究顧問からお声掛けをいただいたのは、9月末頃の事でした。講義内容は、私の経歴やこれまでの活動についての紹介でよいとのことでしたので、喜んで引き受けさせていただきました。とはいえ、講義時間は90分間、それぞれ300人規模の大教室での授業ということで、かなりプレッシャーを感じながら内容を検討し、当日を迎えました。

受講生の学年は1年~4年まで幅広く、横浜市大の男子数名以外はすべて女子という顔ぶれでした。

ヨッシーの経歴
福祉の仕事というと施設職員のイメージがあるかもしれませんが、私は施設勤務ではないソーシャルワーカーとして仕事をしてきました。具体的には、福祉の専門職向けの研修運営、多職種連携のネットワークづくり、調査研究などを担当。その中で、「障害者の就労支援」というテーマと出会い、特に就労継続支援B型事業所(以下B型事業所)などの工賃(給与)向上に資する商品・サービスの開発に関心を持ちました。

ヨッシーの実践
B型事業所は福祉支援の場であるとともに、様々な生産活動による利益を工賃として還元し、障害者の経済的自立を図る役割を担っています。しかし、厚労省が公表するB型事業所の工賃の全国平均値は月額16,507円、時間額233円(2021年実績)と、低い水準から脱することができません。私は担当事業の中で各事業所を訪問するだけでなく伴走支援し、多数の実践者と向き合う中で、各現場の努力だけでは現状を突破できない、福祉ならではの壁のようなものがあることを知りました。
そして、工賃向上を含む就労支援の質の向上は、「福祉×障害×ビジネス」の価値を追求することで実現すると確信。2016年ごろからは、分野横断のコラボレーション創出を目指す事業を複数開発しました。その一つが、障害福祉事業所で作られた食品を持ち寄り、参加者全員が試食、審査するイベント「Food Presentation(以下フードプレゼン)」でした。
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Food Presentation2019 イベント会場の様子
障害とは何かを知る、考えるきっかけに
講義では、「食」と「ビジネス」をテーマとするイベントの企画背景や運営プロセス、事後の評価などを伝えることで、障害者とあまり接点のない(と思われる)大学生にも、関心を深めてもらえると考え、コラボレーションの実践例としてフードプレゼンを紹介させていただきました。

また講義の冒頭では、障害の定義と制度の変遷、障害者雇用の現状などをお伝えし、障害はその人の心身の問題ではなく社会のほうにあるとする「障害の社会モデル」の考え方について解説しました。社会モデルの視点を理解することは、障害を他人事でなく自身の問題ととらえるために有効です。そこで、「私にとってのバリア」について自問し、記述してもらう個人ワークもおこないました。
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講義資料より抜粋
ワークの内容は、以下の2点について「障害の社会モデル」の観点から書き出してみることです。
①私が日頃、「生活しづらい」「不便」と感じること
②そのために、できれば「配慮」してほしいこと

2回の講義で計156枚のペーパーが提出されました。それぞれが講義内容を素直に受け止め、真面目に率直に記入してくれたことが伝わってくるものでした。
記述された「不便の要因」は、左利き、視力の低さ、身長の高低、体力のなさや体調不良、生理、交通事情などが多く見られましたが、中にはかなり独特な視点による「困りごと」もあり、大変興味深く若者の日常の中にある視点を知ることができました。
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回収したワークシートより引用のうえ筆者作成
障害者は支援の対象だけではない
講義の後半は、「コラボレーションを促進する仕組み」を検討した私の研究(修士論文)についてもお話ししました。
さらに、全盲の友人宅に招かれた時のエピソードを紹介したところ、多くの受講生が関心を寄せてくれました。特に反応があったのは、「初対面の私を前に、目の見えない友人は音やにおいや雰囲気からどのような人物か理解し、なぜか私が大阪出身であることを瞬時に見抜いた(大阪弁を使っていないのに)」というエピソードについてでした。
知らないことによる偏ったイメージ、良かれと思って障害者を支援の対象としか見ないことなど、日本社会の通念は若い世代にも浸透していると感じました。一方で、短時間のレクチャーをもとに五感をフル活用し、「障害」のとらえ方を修正しようとする柔軟性、相手が誰であっても対等に向き合えると信じる姿勢を見せてもらい、新しい時代への期待で胸が熱くなりました。
これからも若い世代の皆さんと対話する機会をつくり、促進協のミッション達成につなげるとともに、共生社会の未来を担う人材の育成にも取り組んでまいりたいと思います。ご協力をいただいたフェリス女子大学、横浜市立大学の学生の皆様、影山摩子弥教授に心からお礼を申し上げます。
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手書きワークシートにはイラストを含めた思い思いの記述が。
受講後のアンケートから一部抜粋
  • 障害がその人の心身に原因があるのではなく、社会のなかにあるという社会モデルという考え方は今後バリアフリーやユニバーサルデザインなどの環境が増えていくためのきっかけとなる重要な考え方であると感じた。
  • 福祉という分野はあらゆる学問領域や社会全体の問題と結びついており、障害者だけでなく健常者である自分たちにも関係性の深いものであると学んだ。
  • 障害があるにもかかわらず、それを気にすることなく、他の人と同じように働いている姿に、とても勇気をもらえる。私たち自身も、障害のある方々に対する理解を深めていかなければならないと感じた。
  • 社会のバリアフリーや、障害者に対する世間の不便な点については考える機会が今までもたくさんあった。しかし、自分に対してのバリアを考え、そこから障害者の立場に繋げて考えることは初めてだったので、とても新鮮な体験だった
  • 障害者を雇用することは、大変なことだけではなくて、企業のメリットにもなるということがもっと社会に浸透すれば、企業の発展と障害者の就労機会の確保という様々な面でプラスの効果が生まれると思った。障害者であるということで一線を引くのではなく、同じ人間として共生して一緒に取り組むことが大切だということが分かった。
  • 講義の中で「障害をおもしろがる」という部分が印象的でした。障害を持つ人と聞くと、私たちは勝手に日常生活で困っていることなど負の側面ばかり目を向けてしまいますが、目が見えないからこそのものの捉え方などがあるということが分かりました。
  • 吉川さんがお話してくださったような福祉ビジネスの例を参考に、収益事業型の社会性戦略をとれば、高齢化による障害者の増加、少子化による働き手の減少の双方を解決しながら、SDGsターゲット8-5の「若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにする。」部分が達成できる社会になっていくのではないかと考えた。
  • 講義内の「誰しも障害を持っている」、「障害は違いであり価値」という言葉が大変印象に残り、障害をそれぞれの独自性・アイデンティティとして互いに認めて受け入れられる社会にしていくべきだと思った
  • 今回行われていたアンケート調査やインタビューによって地域の人を含むさまざまな人の視点から新たな発見や課題が生まれているところを見て、発見や研究を実践に移すことの大切さを学ぶことができて、貴重な話を聞けた時間だったと思いました。
  • 障害者の方が身の回りにいないと、障害者につて考える機会が無くよく知らないままの状態になってしまう。そして「知らない」ことが差別に繋がってしまうと思う。そうならない為に障害がどういうものなのか、障害者はどういう方たちなのかを積極的に知っていくことが大事だと思った。
  • 今回のご講義を聞き、個々の特性を把握し相互理解を踏まえた就労条件を整えれば、共生社会の創出に繋がると思いました。福祉の仕事に就かないとしても、自分の分野から障害者の方々と協働できるようにしたいです。
  • 障害者はその人自身というよりも社会の側に問題があるという視点にはとてもしっくりきた。私が以前就労支援事務所のお菓子を購入した時に、とても低姿勢で対応してくださった上に、ただ購入しただけなのにものすごく感謝されたということがあった。たしかに丁寧な対応と感謝の言葉は純粋に嬉しいのだが、私はただ美味しそうだから買っただけだったのに、そこに付き人としていた事務所の方はまるでお金を恵んでもらったかのように下手に回って対応+障害者の方にそのように対応するように仕向けているようにも感じて、かなり違和感を感じたことを思い出した。製品を作り、それをお金を出して買っている時点で上も下もなく、障害者だからと言って社会的に立場が弱くなってしまうということには納得がいかない。ですので、今回紹介してくださったような障害者支援、および厳密な検証、分析は大きな社会的意義を持つと思ったし、そのような活動に協力する際には「自分が支援する側だ。」と下に見ることのないような世の中が今必要だなと思った。
  • 今後重要になる経営の形について考えさせられました。社会のためになることをすることの重要性だけでなく、それを会社の利益につなげて経営を持続させていくということがいかに重要かを認識させられたと感じています。ボランティアではなく民間の会社として行う事業であるという観点が欠如することがないように向き合っていかなければならないのだと再確認しました。社会貢献と利益の関係性については、就職先を考えるうえでも大切な視点になると思います。実際に専門の方からお話を聞けるというのは新鮮で、自分の未来についても考えさせられる貴重な機会でした。
  • 今回の講義は障害に対する見方が変わる、とても良い機会になった
吉川 典子(よしかわ のりこ)主任研究員・社会福祉士
吉川 典子(よしかわ のりこ)
主任研究員・社会福祉士

1999年社会福祉士資格取得。子どもの相談援助や生活支援の現場を経て、中間支援団体のソーシャルワーカーとなり、地域福祉やまちづくりをベースとした、高齢、障害、児童分野の人材育成やネットワーク創出事業を担当。特に就労による障害者の自立促進、ソーシャルインクルージョン等に関する多数の事業・プロジェクトの企画運営、イベントプロデュース、執筆・編集、講演活動などをおこなった。2019年立教大学21世紀社会デザイン研究科博士課程前期課程修了。2021年に独立し、障害者の就労・雇用コンサルタントとして活動中。2023年より促進協主任研究員、㈱ESC代表取締役。


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